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論文リスト

心理学分野における共感覚研究の進め方

 宇野、浅野(2023)では、実験心理学の分野で共感覚の研究を進める際に基本となる方法や手順について、整理して紹介しています。加えて、共感覚という主観的な意識経験を科学的に研究する際の、基本となる考え方や注意すべき点についてまとめています。基礎心理学研究は、日本の学術論文誌です。

宇野 究人, 浅野 倫子 (2023).「共感覚の実験心理学的研究の進め方」『基礎心理学研究』, 41(2), 136-143. [PDF]

多感覚の統合的認知の基礎と感覚提示インタフェースへの応用可能性

大野、横澤、鳴海(2022)は、異なる感覚間の相互作用処理であり、統合的認知を代表する共感覚、感覚間協応、多感覚統合を取り上げ、各概念を特性と基盤メカニズムの2つの観点から整理したうえで、統合的認知の感覚提示インタフェースへの応用可能性を検討しました。日本バーチャルリアリティ学会論文誌は、日本の学術論文誌です。

大野 雅貴, 横澤 一彦, 鳴海 拓志 (2022), 「多感覚の統合的認知の基礎と感覚提示インタフェースへの応用可能性」『日本バーチャルリアリティ学会論文誌』, 27(1), 18-28. [PDF

本論文は、日本バーチャルリアリティ学会において論文賞に選ばれ、第28回バーチャルリアリティ学会大会において表彰されました。

色字共感覚の言語による相違

 色字共感覚は、文字と色の結びつきが時間的に安定しています。どの文字がどの色を感じるのかという。文字と色の結びつきは、読みの一致度、色名の頭文字(「Yは黄色」)、意味の関連付け(「Dは犬を表し、犬は茶色」)などの言語特性の影響を受けることが知られていました。これまでの共感覚研究は、国際的には、英語に関する共感覚が数多く行われてきましたが、Root, Asano, Melero, Kim, Sidoroff-Dorso, Vatakis, Yokosawa, Ramachandran, & Rouw (2021) では、オランダ語、英語、ギリシャ語、日本語、韓国語、ロシア語、スペイン語の共感覚関連に対する色名、意味的関連、および非言語的形状-色関連の影響を調べました。言語的要因の影響は、言語間で大きく異なりましたが、普遍的であると予測した非言語的影響(形状と色の関連)は、言語間に違いはありませんでした。共感覚は、様々な言語での文字表象の影響を研究するために有効な現象であると考えられます。Consciousness and Cognitionは、オランダの学術論文誌です (IF2.110/2020)。

N. B. Root, M. Asano, H. Melero, C.-Y. Kim, A. V. Sidoroff-Dorso, A. Vatakis, K. Yokosawa, V. S. Ramachandran, & R. Rouw (2021). "Do the colors of your letters depend on your language? Language-dependent and universal influences on grapheme-color synesthesia in seven languages", Consciousness and Cognition, 95, 103192. [Link]


色字共感覚とそれ以外の共感覚 

 横澤(2021)では、日本語の特性を利用し、色字共感覚の解明を目指した研究を紹介するとともに、色字以外の共感覚を含めて分類し、それらの特性を明らかにしています。さらに、多重共感覚の特徴について触れています。脳神経内科は、日本の学術論文誌です。

横澤 (2021). 「共感覚」『脳神経内科』, 95, 2, 195-201.


色字共感覚の経年変化

 Uno, Asano, & Yokosawa (2021)は、日本人共感覚者の縦断的研究を実施し、色字共感覚の長期間における経年変化を調べました。短期および長期(5~8年)の時間安定性を比較した結果、短期的時間安定性が低い文字は、長期的時間安定性も低い傾向があり、両者の相関は高く、文字と共感覚色の組み合わせの時間的安定性が文字毎に決まっていることが明らかになりました。さらに、親密度の低い文字は、その共感覚色の時間安定性も低くなりました。親密度の低い文字の共感覚色は、 時間の経過とともに変化しやすく、文字と共感覚色の対応関係が弱い統合であることを反映していると考えられます。Consciousness and Cognition は、オランダの学術論文誌です (IF2.110/2020)。

K. Uno, M. Asano, & K. Yokosawa (2021). "Consistency of synesthetic association varies with grapheme familiarity: A longitudinal study of grapheme-color synesthesia", Consciousness and Cognition, 89, 103090. [Link]


共感覚色が明るさ知覚に与える影響

 Uno & Yokosawa (2020)は、共感覚者が文字を見た時に感じる色(共感覚色)が明るさ知覚に影響するかについて検討しました。標準刺激に対する文字の物理的な明るさの主観的等価点を恒常法により測定した結果、明るい共感覚色を励起する文字は暗い共感覚色を励起する文字よりも明るく知覚されることが示されました。この効果は共感色を外部空間に感じない共感覚者(連想型)においても見られ、励起した共感覚色が低次の視覚情報処理を変容させることが明らかになりました。Scientific Reports は、 英国の学術論文誌です (IF:4.120/2020)。

K. Uno & K. Yokosawa (2020). "Apparent physical brightness of graphemes is altered by their synaesthetic colour in grapheme-colour synaesthetes", Scientific Reports, 10:20134. DOI:10.1038/s41598-020-77298-2. [PDF]


既知文字の共感覚色が新奇文字に転移する条件

 色字共感覚では一般的に、未知の文字には色を感じないが、「その新奇文字は既知文字の A に相当する」のように既知文字に対応づけて学習させると、すぐに既知文字の共感覚色が転移する形で新奇文字に色を感じるようになることが知られていました。 Uno, Asano, Kadowaki, &  Yokosawa (2020)では、 色字共感覚の保持者に新奇文字(未知のタイ文字)を提示し、それぞれに異なる既知文字(平仮名)を1 文字ずつ対応づけて学習させました。その結果、既知文字の共感覚色が互いに異なる色であった場合に比べて、既知文字すべてが似た共感覚色を持つ場合は転移が起こりにくいことが分かりました。これは、共感覚色が文字の学習時に文字の弁別に使われ、学習を補助するという仮説と整合的な結果です。Psychonomic Bulletin & Review は、米国の学術論文誌です (IF: 3.640/2020)。

K. Uno, M. Asano, H. Kadowaki, & K. Yokosawa (2020). "Grapheme-color associations can transfer to novel graphemes when synesthetic colors function as grapheme “discriminating markers"", Psychonomic Bulletin & Review, 27, 4, 700-706. [PDF]


非共感覚者の色字対応の手がかり

 永井、横澤、浅野 (2019)では、非共感覚者が示す色字対応において共感覚者と同様の規則性が存在する可能性を再検討し、文字頻度や、BerlinとKayの色類型・色名の頻度といった特性は、直感的な色順位,五十音順序との間でそれぞれ有意な相関を示しました。すなわち、これらの特性は色字対応が形成される際の手がかりとして関与していることが確かめられたことになります。認知科学は、日本の学術論文誌です。

永井、横澤、浅野 (2019). 「非共感覚者が示すかな文字と色の対応付けとその規則性」『認知科学』, 26, 4, 426-439. [PDF]


心理言語学的アプローチを用いた漢字の共感覚色の決定要因の解明

 Asano, Takahashi, Tsushiro, & Yokosawa (2019)では、色字共感覚における根本的な疑問である文字と色の間の特定の対応づけがどのように形成されるかについて、心理言語学的アプローチを用い て、漢字の共感覚色の決定要因に焦点を当てた研究を行いました。漢字反対語ペアの共感覚色を調べることによって、意味が漢字の共感覚色に影響を与えることを明らかにしました。また、学校教育での漢字の学習の順序が共感覚色に及ぼし、漢字の新しい読みや意味を習得すると、漢字と色の一貫性がわずか に変化することから、漢字に対する最新の知識を共感覚色に反映できることを示しています。Philosophical Transaction of The Royal Society B  は、英国の学術論文誌です (IF:6.139/2018)。

M. Asano, S. Takahashi, T. Tsushiro, & K. Yokosawa (2019). "Synaesthetic colour associations for Japanese Kanji characters: From the perspective of grapheme learning", Philosophical Transaction of The Royal Society B, 374: 20180349. [PDF]


形態情報が色字共感覚色数に与える影響

 宇野、浅野、横澤 (2019)では、⽇本語の漢字に対する共感覚色を最⼤2色まで回答させる実験を⾏った結果,偏と旁に分かれる漢字は分かれない漢字に⽐べて回答される色の数が多く、この傾向は連想型共感覚者より、投射型共感覚者ほど強いことが明らかにしました。この結果から、漢字の形態情報は対応付けられる共感覚色の数 に影響しており, 投射型傾向の強い共感覚者では漢字の構成要素ごとの情報が色字対応付けに影響している可能性が⽰されたことになります。心理学研究は、日本の学術論文誌です。なお、本論文に対して日本心理学会から、"優秀論文賞" が 授与されました。

宇野、浅野、横澤 (2019). 「漢字の形態情報が共感覚色の数に与える影響」『心理学研究』, 89, 6, 571-579. [PDF]


数字の擬人化の発達的減少

 子供はしばしば無生物を擬人化するが、Matsuda, Okazaki, Asano, & Yokosawa (2018)は児童が数字を擬人化する傾向が発達過程で減少するという仮説を立て、児童と成人が擬人化する頻度を調べた。共感覚者ではないと考えられる 151人の児童(9歳~12歳)と55人の成人を調べた結果、児童の方が成人より擬人化する頻度が高く、0から9までの各数字にユニークで排他的な記述を 割り当てる傾向があった。このような傾向が、小学校高学年になるにしたがって、減少することも明らかにした。Frontiers in Psychology は、スイスの学術論文誌です (IF: 2.129/2018)。

E. Matsuda, Y. Okazaki, M. Asano, K. Yokosawa (2018). "Developmental Changes in Number Personification by Elementary School Children", Frontiers in Psychology, 9:2214, DOI:10.3389/fpsyg.2018.02214. [PDF]


色字共感覚の言語横断的特徴

 共感覚の特徴の一つは個人特異性なのですが、アルファベットのAの共感覚色はほとんどの場合赤であり、それはappleのAだからではないかという推測もされていたのですが、Root, Rouw, Asano, Kim, Melero, Yokosawa, & Ramachandran (2018)は、英語、スペイン語、オランダ語、韓国語、日本語の色字共感覚特性の比較によって、言語に依存しない共通性を分析しました。仮名のあ、アなどの共感覚色も赤であることが多く、多種の文字セットを使用する日本語を使った研究データが活かされ、文字セットの最初の文字 の共感覚色が赤になるという共通性が導き出されました。Cortex は、 英国の学術論文誌です(IF:4.275/2018)。

N. B. Root, R. Rouw, M. Asano, C.-Y. Kim, H. Melero, K. Yokosawa, & V. S. Ramachandran (2018). "Why is the synesthete's "A" red? Using a five-language dataset to disentangle the effects of shape, sound, semantics, and ordinality on inducer-concurrent relationships in grapheme-color synesthesia", Cortex, 99, 375-389. [Link]


非共感覚者における文字と色の組合わせ

 従来、英語圏の研究では、色字共感覚者が示す文字と色の組み合わせが、非共感覚者とは全く異なる規則性に従っているというのが半ば定説でし た。 Nagai, Yokosawa, & Asano (2016)では、日本語圏の非共感覚者が示す文字と色の組み合わせにおいて、英語圏および日本語圏の色字共感覚者と同様のバイアスや規則性があることを 見出しました。Quarterly Journal of Experimental Psychology は、英国の学術論文誌です (IF:2.129/2016)。

J. Nagai, K. Yokosawa, & M. Asano (2016). "Biases and regularities of grapheme-colour associations in Japanese non synaesthetic population", Quarterly Journal of Experimental Psychology, 69, 1, 11-23. [Link]

 

色字共感覚からみた人間の感覚多様性

 共感覚者と文字をつなぐ色インタフェースとしての共感覚色の役割が指摘されています。浅野、横澤(2014)では、これまでの研究で得られ てきた、色字共感覚の基本的性質、文字と共感覚色の組合せの規定因、色字対応付けの文字習得過程仮説などを紹介しています。色字共感覚における共感覚色の特性を理解することで、より良い色インタフェースにつなげることへの期待を述べています。ヒューマンインタフェース学会誌は、日本の学術論文誌です。

浅野、横澤 (2014). 「色字共感覚:文字認知と色認知の隠れた結びつき」『ヒューマンインタフェース学会誌』, 16, 4, 265-268. 


統合的認知とは何か?

 横澤(2014)では、要素還元的な脳機能の理解ではなく、人間行動そのものの理解へ導くための新たな認知心理学的アプローチとして、統合的認知の研究に取り組む重要性を指摘し、注意,オブジェクト・情景認知、身体と空間の表象、感覚融合認知、美感、共感覚などの研究を紹介しています。このような研究群の中から、トレードオフ関係,インプリシット結合,個人差の問題に取り組んだ具体的研究例を紹介しています。認知科学は、 日本の学術論文誌です。

横澤 (2014). 「統合的認知」『認知科学』, 21, 3, 295-303. [PDF]


色字共感覚と文字の習得過程の深い関係

 文字に色を感じる色字共感覚についての様々な先行研究で、文字の音韻、形態、親密度など文字に関連付けられた様々な情報が、文字に感じる色 (共 感覚色)に影響しうることが明らかにされてきました。しかし、そのように影響しうる要因が多数ある中で、どうやって共感覚色が1色に絞られるのかは謎でした。この謎を解くために、Asano & Yokosawa (2013b)では、幼少期に文 字を習得する過程を考慮に入れた新しい仮説を提案し、また、その仮説が妥当であることを実験的に示しました。この仮説は「英語の色字共感覚では音韻の影響 が弱いのに、日本語では強い」というような言語間での違いも含め、文字と共感覚色の結びつきかたを包括的に説明することができます。Frontiers in Human Neuroscience はスイスの学術論文誌です (IF:3.209/2016)。

M. Asano & K. Yokosawa (2013b). "Grapheme learning and grapheme-color synesthesia: Toward a comprehensive model of grapheme-color association", Frontiers in Human Neuroscience, 7:757. DOI: 10.3389/fnhum.2013.00757. [PDF]


字種毎の色字共感覚の規定因

 Asano & Yokosawa (2013a) は、文字習得以前の段階で言語音や数などの基本的な概念と色の結びつきが存在し、その色が初期の文字種の学習時に共感覚色として文字に対応づけられ、その後学習する文字種の共感覚色に汎化するという仮説が、共感覚色の色差と、音韻類似度、形態類似度、順序差などとの重回帰分析の結果、妥当であることを示しました。Visual Cognitionは、英国の学術論文誌です(IF:1.372/2016)。

M. Asano & K. Yokosawa (2013a). "Determinants of synaesthetic colours for different types of graphemes: Towards a comprehensive model", Visual Cognition, 21, 6, 674-678. (Object Perception, Attention, and Memory (OPAM) 21st Annual Meeting, Toronto, Canada (November, 2013) Conference Report). [Link]


日本語文字の習得過程に起因する色字共感覚の決定要因

 一部の人には "「あ」は赤" のように文字に特定の色を感じるという色字共感覚が生じますが、そのメカニズムはいまだ明らかではありません。 Asano & Yokosawa (2012)は、共感覚色がまず平仮名やアラビア数字など最も幼少期に学習した文字に結びつき、それが文字の音韻や意味の情報を介在して、後に学習した漢字の共感覚色に汎化する可能性を 明らかにしました。複数の文字種を段階的に身につけていく日本語の特性を生かし、共感覚に言語処理のメカニズムが深く関わっていることを示した研究成果で す。Consciousness and Cognition は、オランダの学術論文誌です (IF2.144/2016)。

M. Asano & K. Yokosawa (2012). "Synesthetic colors for Japanese late acquired graphemes", Consciousness and Cognition, 21, 2, 983-993. [Link]


仮名に対する色字共感覚の決定要因

 色字共感覚とは、文字に特定の色を感じる共感覚です。Asano & Yokosawa (2011) は、日本語の平仮名と片仮名は形状が異なり、多くの場合異なる事物を表すために使われるものの、同じ音韻集合を表す文字セットであることを利用して、色字 共感覚者6名の共感覚色の決定要因を調べました。その結果、対応する平仮名と片仮名の共感覚色が非常に類似していることから、仮名の共感覚色は音韻によっ て規定されていることを明らかにしました。Consciousness and Cognition は、オランダの学術論文誌です (IF2.144/2016)。

M. Asano & K. Yokosawa (2011). "Synesthetic colors are elicited by sound quality in Japanese synesthetes", Consciousness and Cognition, 20, 4, 1816-1823. [Link]