Q & A

ここでは、よく聞かれる共感覚に関する質問について、最新の研究成果を踏まえてお答えします(随時更新予定)。


なお、色字共感覚については、YouTubeでの解説 [LINK] も併せてご覧下さい。

また、Q&Aや本HPを見て「共感覚を持っているかもしれない」と思われた方は、「共感覚者の方へ」のページもご参照ください。

Q1. 共感覚はどの程度一般的なのでしょうか?

A1.

世の中のどのくらいの割合の人が共感覚を持っているのかについて、正確な数を知ることは簡単ではありません。共感覚を持っていてもそのことを他の人に言わない人もいますし、そもそも自分が持っている感覚が特別に「共感覚」と呼ばれるものであることに気づいていない人も多いため、正確な統計をとりにくいのです。でも、共感覚を持っている人の割合が少ないことは確かだと考えられています。

共感覚の科学的研究では、「文字や数字に色を感じる」などの自覚に加えて、「文字や数字の色がその人の中ではしっかり決まっていて、いつでも基本的に変わらない」というように共感覚の内容が安定している人を共感覚者として扱います。そのような人がどのくらいの割合でいるのかを調べるため、イギリスの研究者たちは、ロンドンの科学博物館への来場者1190人やエディンバラ大学の学生500人を対象に、文字や数字を見たり、聞いたり、考えたりしたときに色を感じるか(つまり、色字共感覚を自覚的に持っているか)を尋ねると同時に、コンピュータ画面上に黒い文字や数字を表示して直感的に合う色をパレットの中から選んでもらうというテストを行いました(Simner et al., 2006)。その結果、ほとんどの人は色字共感覚の自覚をもっておらず、また、文字に対してランダムに色を選びましたが、約1%の人は自覚があり、かつ、文字と色の組み合わせが非常に安定していることが分かりました。また、エディンバラ大学の調査では、色字共感覚のほか、月日に色を感じる、音に色を感じる(色聴共感覚)、人に色を感じる、味に形を感じるなどの様々な種類を総合すると、約4%の人が何らかの種類の共感覚を持っていると考えられることが分かりました。この研究では検討対象から漏れてしまった種類の共感覚(例えば、数字や月日の概念に空間配置を感じるタイプの共感覚など)も含めると、この割合はもう少し高くなると考えられます。

以上のイギリスの研究から、色字共感覚を持っている人の割合は一般社会の1%程度、何か1種類でも共感覚を持っている人は少なくとも4%程度だと推定されています。日本を含め、他の国や文化圏に関しては、残念ながらここまで大規模で精度の高い調査報告はまだありませんが、様々な言語圏での共感覚について調べた研究の結果(Watson et al., 2017)を踏まえると、イギリスでの割合と大きくは変わらないと考えられます。


参考文献

1. Simner, J., Mulvenna, C., Sagiv, N., Tsakanikos, E., Witherby, S. A., Fraser, C., Scott, K., & Ward, J. (2006). Synaesthesia: The prevalence of atypical cross-modal experiences. Perception, 35(8), 10241033. [LINK]

2. Watson, M. R., Chromy, J., Crawford, L., Eagleman, D. M., Enns, J. T., & Akins, K. A. (2017). The prevalence of synaesthesia depends on early language learning. Consciousness and Cognition, 48, 212231. [LINK]

Q2. 共感覚を持つことのメリットやデメリットはありますか?

A2.

これまで日本を含めた世界中で、数多くの共感覚を持つ人(共感覚者)の方を対象とした研究が行われてきましたが、「はっきりとメリットやデメリットとまで言えるものはないようだ」というのが大まかに言えることです。

共感覚者が共感覚者ではない人(非共感覚者)からよく受ける質問の一つに、(例えば、文字に色を感じる色字共感覚であれば)「文字を見るたびに色を感じるなんて、情報が多すぎて疲れませんか?」というものがあります。しかし、多くの共感覚者は「文字に色を感じない状態を経験したことがないから、自分が文字の色のせいで疲れているかどうかは分からない」と言います(もし非共感覚者が、共感覚者に「文字に色が付いていないなんて、困ったり、寂しかったりしないのですか?」と聞かれたら、きっと戸惑う人が多いと思います。それと同じです)。共感覚者にとっては共感覚があることが当たり前で、非共感覚者にとっては共感覚がないことが当たり前で、それぞれがそれぞれの「当たり前」を前提として、同じ社会の中で一緒に日常生活を送っているのです。

共感覚者によっては、共感覚の内容が強烈だったり、疲れていて共感覚の内容を無視できないと感じたりしたときに、共感覚が思考を邪魔しているように感じるという人もいます。そのように困っている場合は、共感覚にデメリットがあると言えるでしょう。しかし、「共感覚は道端の小石と同じで、常にそこにあるのはわかっているけれども、気にしなければ邪魔にならない」というようなことを言う共感覚者も多くいます。また、共感覚者の中には、周りの人が共感覚を持っていないことに長年気づかなかった(例えば、人間は誰でも、自分と同じように文字に色を感じているものだと思い込んで長年過ごしてきた)という人も多くいます(Cytowic, 2002)。このことから、本人が「私は共感覚がある」「共感覚がない」とあえて周囲に伝えない限り、その人が共感覚を持っているかは他の人にはわからない、つまり、共感覚者が共感覚を持っていることが原因で「社会の中で自然と浮いてしまう」ということは生じにくいと考えられます。

『共感覚 ―統合の多様性―』(2020, 勁草書房)の第3章には、色字共感覚を持つ方18人に対するインタビューのまとめが掲載されていて、その中には、共感覚を持っていて「得をすること」「損をすること」についての、それぞれの方自身の考えを述べた項目があります。ご興味がある方は読んでみてください。


参考文献

1. 浅野倫子・横澤一彦 (2020). 共感覚 ―統合の多様性―. 勁草書房 [LINK]

2. Cytowic, E. (2002). Synesthesia: A union of the senses (2nd ed.). MIT Press. [LINK]

Q3. 男性より女性のほうが共感覚を持ちやすいのでしょうか

A3.

共感覚の保有率に性差はないという見方が優勢です。例えばその根拠として、新聞広告やインターネットで自発的な共感覚研究協力者を募るのではなく、イギリスの博物館の来館者に対して、繰り返し測定したときの一致度の指標である時間的安定性に関するテストを行い、その中から共感覚者を特定した場合の男女比は1:0.9であったという報告があり(Simner et al., 2006)、ほとんど男女差が見られないことが挙げられます。他にも、いくつかの大規模調査(Rouw & Scholte, 2016; Watson et al., 2017)でも、研究に協力した人の中での、最終的に共感覚者だと認められた人の割合(研究に協力した男性/女性のうちのそれぞれ何パーセントが共感覚者だと認められたか)には性差が見られませんでした。

その一方で、イギリスの研究では、研究協力に応募し、色字共感覚や色聴共感覚の時間的安定性テストにも合格して共感覚者と認められた人の人数の男女比は1:6でした(Baron-Cohen et al., 1996)。Rich et al. (2005)によるオーストラリアでの新聞広告を用いた研究でも同様の男女比が報告されています。日本において、東京大学のグループがWebサイトを用いて共感覚者募集したときに、アンケートに答えてくれた184名のうち、87%(160名)が女性でしたので、男女比は1:6.7となり、この男女比はこれまでの外国からの報告とほぼ一致していると言えます。つまり、研究に協力した人の性別の内訳(また、研究に協力した結果、最終的に共感覚者だと判断された人々の中での性別の内訳)は女性に大きく偏っている研究が多いということです。

これらを考え合わせると、共感覚の保有率自体に性差があるのではなく、研究協力の呼びかけに応じるかどうかに性差があると考えられます。男性はボランティアとして応募したり、積極的に研究協力に名乗り出たりすることが少なく、共感覚を持っていることを認める可能性が低いということになるのかもしれません。女性のほうが研究協力に応じやすい理由を特定するのは困難ですが、女性のほうが男性よりも自分の内面について他人に開示する傾向が強い(Dindia & Allen, 1992)ことなどが影響しているのではないかと指摘する研究者もいます。女性のほうが男性よりも、服や化粧品など、色について意識する機会が多い傾向にあることも関係しているかもしれませんね。

なお、この回答の多くは、『共感覚 ―統合の多様性―』(2020, 勁草書房)第1章14ページ「性差は存在するか」を基に書かれています。


参考文献

1. Baron-Cohen, S., Burt, L., Smith-Laittan, F., Harrison, J., & Bolton, P. (1996). Synaesthesia: Prevalence and Familiality. Perception, 25(9), 1073–1079. [LINK]

2. Dindia, K., Allen, M. (1992). Sex differences in self-disclosure: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 112, 106124. [LINK]

3. Rich, A. N., Bradshaw, J. L., & Mattingley, J. B. (2005). A systematic, large-scale study of synaesthesia: Implications for the role of early experience in lexical-colour associations. Cognition, 98(1), 53–84. [LINK]

4. Rouw, R., & Scholte, H. S. (2016). Personality and cognitive profiles of a general synesthetic trait. Neuropsychologia, 88, 35–48. [LINK]

5. Simner, J., Mulvenna, C., Sagiv, N., Tsakanikos, E., Witherby, S. A., Fraser, C., … Ward, J. (2006). Synaesthesia: The prevalence of atypical cross-modal experiences. Perception, 35(8), 1024–1033. [LINK]

6. Watson, M. R., Chromý, J., Crawford, L., Eagleman, D. M., Enns, J. T., & Akins, K. A. (2017). The prevalence of synaesthesia depends on early language learning. Consciousness and Cognition, 48, 212–231. [LINK]

Q4. 家族に遺伝するのでしょうか

A4.

共感覚の有無には遺伝の影響があることが知られています。古くは、1917年にJordanという研究者が、自分自身と息子の各アルファベット文字に対する共感覚色を報告し、色字共感覚が遺伝する可能性を指摘しています(Jordan.1917)。共感覚が遺伝する可能性は、これまで主に共感覚者の家系の調査研究によって支持されてきました。例えば、共感覚者6名の家系を調査した結果、その共感覚者の1親等の親族の48.6%が共感覚を持っていました(Baron-Cohen et al., 1996)。Ward & Simner (2005)によれば、共感覚者の約40%は、少なくとももう1人の家族が共感覚者であることを知っているようです。このような報告から、一般的な共感覚者の存在確率(4%程度; Simner et al., 2006)に比べると、共感覚者の家族に共感覚者がいる割合はかなり高いと言えます。ただし、遺伝の影響があるのは「共感覚を持つかどうか」までで、具体的な共感覚のタイプなどには影響しないものと考えられています。共感覚のタイプは、強く遺伝するわけではなく、学習や幼少期の経験が共感覚体験に強く影響することが研究で示されていますので(Witthoft, Winawer, & Eagleman, 2015)、共感覚は遺伝的素因と幼少期の学習との相互作用によるものと考えられます。「共感覚の遺伝子」に関する研究も行われていますが、単一遺伝子の特定には至っておらず、共感覚には複数の遺伝子がそれぞれ独立に関与している可能性も指摘されています(Bosley & Eagleman, 2015)。

共感覚者は、家族に共感覚を否定されることを恐れて、自分の共感覚のことを家族に話さないことがよくあります。共感覚者が大人になってから「カミングアウト」し、きょうだいや親が実は非常に似たようなことを経験していたことにそこで初めて気づくということもあり得ます。

なお、この回答の多くは、『共感覚 ―統合の多様性―』(2020, 勁草書房)第2章25ページ「遺伝的要因」を基に書かれています。


参考文献

1. Baron-Cohen, S., Burt, L., Smith-Laittan, F., Harrison, J., & Bolton, P. (1996). Synaesthesia: Prevalence and Familiality. Perception, 25(9), 1073–1079. [LINK]

2. Bosley, H. G., & Eagleman, D. M. (2015). Synesthesia in twins: Incomplete concordance in monozygotes suggests extragenic factors. Behavioural Brain Research, 286, 93–96. [LINK]

3. Jordan, D. S. (1917). The colors of letters. Science, 46(1187), 311312. [LINK]

4. Simner, J., Mulvenna, C., Sagiv, N., Tsakanikos, E., Witherby, S. A., Fraser, C., Scott, K., & Ward, J. (2006). Synaesthesia: The prevalence of atypical cross-modal experiences. Perception, 35(8), 10241033. [LINK]

5. Ward, J., Simner, J., & Auyeung, V. (2005). A comparison of lexical-gustatory and grapheme-colour synaesthesia. Cognitive Neuropsychology, 22(1), 28–41. [LINK]

6. Witthoft, N., Winawer, J., & Eagleman, D. M. (2015). Prevalence of learned grapheme-color pairings in a large online sample of synesthetes. PLoS ONE, 10(3), 1–10. [LINK]

Q5. 共感覚には何種類くらいあるのでしょうか

A5.

例えば、Cytowic & Eagleman (2009; 日本語訳は サイトウィック・イーグルマン著、山下訳、2010) の書籍では、共感覚者のオンラインコミュニティで738人の共感覚者から寄せられた主観報告を40種類の共感覚に分類しています。長年にわたり共感覚を研究しているSean Day氏のウェブサイト(http://www.daysyn.com/)の「共感覚のタイプ(Types of Syn)」のページでは2023年7月31日現在、1297人の共感覚者からの報告を分類した結果として、少なくとも75種類の共感覚があると紹介されています。このように、分類のしかたによって数が大きく揺らいでしまったり、共感覚という現象の全体像が未解明だったりする関係で、厳密に何種類あるのかは分かりません。しかし、多くの種類があることは確かです。

共感覚の種類数がはっきりとしない原因の一つに、何をもって1種類の共感覚としてカウントするかの判断が難しいことがあります。たとえば「文字や数字に色を感じる共感覚」は、「色字共感覚(grapheme-color synesthesia)」のように一つの共感覚として数えることもできますし、「文字-色共感覚(letter-color synesthesia)」と「数字-色共感覚(digit-color synesthesia)」のように二つに分けてカウントすることもできます。同様に、数字に空間配置(例:1から10までは左から右に並び、それ以降は左上のほうに進む配置で並び、20で少し方向が曲がる)を感じる共感覚と、曜日に空間配置を感じる共感覚、「1月、2月・・・」といった一年の月に空間配置を感じる共感覚、年号に空間配置を感じる共感覚をすべて別々の共感覚として扱うこともできますし、それらをひとまとまりにして「空間系列共感覚(sequence-space synesthesia)」と扱うこともできます。Q7で紹介されているように、共感覚は大きくは5つのグループにまとめられるのではないかという指摘もあります(Novich, Cheng, & Eagleman, 2011)。それをどこまで細分化すべきか、もしくはどこまでまとめるべきかは、その時々の目的にもよることでしょう。

共感覚の種類数がはっきりとしない他の原因として、ときどき新しい種類の共感覚が発見されるということが挙げられます。文字に色を感じる色字共感覚や、音に色を感じる色聴共感覚の存在は19世紀には知られていたのですが(Jewanski, 2013)、21世紀になってからも新たに泳ぎの型に色を感じるタイプの共感覚(例:背泳ぎに黄色の印象を覚える)などの存在が報告されたりと(Nikolić, Jürgens, Rothen, Meier, & Mroczko, 2011)、共感覚に分類されるものはたびたび増えます。共感覚の全貌はまだ明らかではありません。


参考文献

1. Cytowic, R. E. & Eagleman, D. M. (2009). Wednesday is Indigo Blue: Discovering the Brain of Synesthesia, MIT Press. [LINK] (日本語訳:リチャード・E・サイトウィック, デイヴィッド・M・イーグルマン著, 山下篤子訳, (2010). 脳のなかの万華鏡:「共感覚」のめくるめく世界. 河出書房新社 [LINK])

2. Day, S. Synesthesia. http://www.daysyn.com/ (2023年7月31日時点の情報)

3. Jewanski, J. (2013). Synesthesia in the nineteenth century: Scientific origins. In J. Simner & E. M. Hubbard (Eds.), The Oxford handbook of synesthesia (pp. 369-398). Oxford University Press. [LINK]

4. Nikolić, D., Jürgens, U. M., Rothen, N., Meier, B., & Mroczko, A. (2011). Swimming-style synesthesia. Cortex, 47(7), 874–879. [LINK]

5. Novich, S., Cheng, S., & Eagleman, D. M. (2011). Is synaesthesia one condition or many? A large-scale analysis reveals subgroups. Journal of Neuropsychology, 5, 353371. [LINK]

Q6. 最も一般的な共感覚の種類は何ですか?

A6.

最も一般的な(最も多くの人が持っている)共感覚の種類が何であるかははっきりとは分かりません。Q1のところで書かれているように、どのくらいの人が共感覚を保持しているかを正確に把握するのが難しいことや、Q5のところで書かれているように、何をもって1種類の共感覚としてカウントするかの判断が難しいことなどが、その理由です。共感覚の種類別の保有率を調べた研究はいくつか存在するのですが、それらの研究間でも細かい結果はなかなか一致していません。ただ、共感覚を引き起こす情報を誘因特徴(例として、色字共感覚の場合であれば文字)、共感覚として引き起こされる感覚を励起感覚(色字共感覚の場合であれば色)と呼びますが、大きな傾向として、誘因特徴は文字や数字、曜日や一年の月などの日付に関する概念、音階といった系列情報(「あいう…」や「ABC…」等の文字順、「月火水…」の曜日順などのように、何らかの順序をもった情報)が多めであることや、励起感覚は色や空間配置が多めであることが指摘されています(Novich, Cheng, & Eagleman, 2011;Q7も参照してください)。参考までに、Ward (2013) の論文では、2006年から2010年の間に報告された4つの研究における共感覚保有率調査の結果がまとめられているのですが、それによると、一般人口における種類別の共感覚の保有率は以下の通りです:空間系列共感覚(例:曜日や日付などの概念に空間配置を感じる)2.2~20.0%、曜日に色を感じる共感覚 2.8%、視覚情報に触覚を感じる(ミラータッチ)共感覚 1.6%、色字(文字や数字に色を感じる)共感覚 1.4%、一年の月に色を感じる共感覚 1.0%、人物に色を感じる共感覚 0.4%、楽音に色を感じる共感覚 0.2%、味に形を感じる共感覚 0.2%。ただし、繰り返しになりますが、これらの数値は共感覚の分類のしかたなどによって大きく変動する可能性があることに注意が必要です。


参考文献

1. Novich, S., Cheng, S., & Eagleman, D. M. (2011). Is synaesthesia one condition or many? A large-scale analysis reveals subgroups. Journal of Neuropsychology, 5, 353–371. [LINK]

2. Ward, J. (2013). Synesthesia. Annual Review of Psychology, 64, 4975. [LINK]

Q7. 共感覚者が2種類以上の共感覚を持つことは可能なのでしょうか?

A7.

2種類以上の共感覚を持つ共感覚者は、多重共感覚者と呼ばれています。色字共感覚者1,067人について、色字共感覚以外の共感感覚の保有を調べた結果、時間単位―色共感覚、色聴共感覚、空間配列共感覚を併発している例が多いことが報告されています(Cytowic & Eagleman, 2009)。具体的には、色字共感覚者において、77.8%が曜日―色共感覚、71.9%が月―色共感覚、51.7%が楽音―色共感覚、49.3%が空間配列共感覚を保有していました。各共感覚が独立に生じると仮定するならば、このような併発はありえないように思います。また、色字共感覚と序数擬人化(数字や文字に性別や年齢などの人物印象を感じる共感覚)は、誘因特徴が共に文字であり、共起しやすい共感覚であると考えられています(Simner & Holenstein, 2007)。このような多重共感覚は、色字共感覚者に限定されるわけではありません。例えば、21人のミラータッチ共感覚(他人がその人の身体のある部位を触れられているのを見たときに、自分の身体の同じ部位が触れられていると感じる共感覚)の保持者のうち、9人(43%)が文字に性別やパーソナリティを感じる擬人化共感覚を有し、7人(33%)が色字共感覚を有することが確認されています(Banissy, Cohen Kadosh, Maus, Walsh, & Ward 2009)。

共感覚者と認定された12,127人分のデータを使って、22種類の共感覚に関する回答を分析した結果、5つの独立したグループに分かれることが明らかになっています(Novich, Cheng, & Eagleman, 2011)。文字や日付など視覚情報から色を感じる共感覚(一般的には色字共感覚)、音の高低や楽器音など聴覚情報から色を感じる共感覚(一般的には色聴共感覚)、触覚、嗅覚、概念などから視聴覚以外の誘因特徴によって色を感じる共感覚、音に匂いを感じたり、形に味を感じたりするという、励起感覚が視覚情報ではない共感覚、数字や日付に空間配置を感じる空間系列共感覚の5つです(誘因特徴や励起感覚という言葉の意味についてはQ6参照)。このようなグループに分類できるのは、多重共感覚者が、同じグループの共感覚を複数併発している可能性が高いことによるものです。同一共感覚者に異なる共感覚が混在しているということは、それぞれの共感覚に独立した原因があるのではなく、共通の原因があることを示唆しています。

いずれにしても、複数の共感覚を保有できるかという質問に回答するためには、共感覚をどのように分類するのかと密接に関わっていますので、Q5も参考にして下さい。


参考文献

1. Banissy, M.J., Cohen Kadosh, R, Maus, G.W., Walsh, V., & Ward, J. (2009). Prevalence, characteristics and a neurocognitive model of mirror-touch synaesthesia. Experimental Brain Research, 198, 23, 261272. [LINK]

2. Cytowic, R. E. & Eagleman, D. M. (2009). Wednesday is Indigo Blue: Discovering the Brain of Synesthesia, MIT Press. [LINK] (日本語訳:リチャード・E・サイトウィック, デイヴィッド・M・イーグルマン著, 山下篤子訳, (2010). 脳のなかの万華鏡:「共感覚」のめくるめく世界. 河出書房新社 [LINK])

3. Novich, S., Cheng, S., & Eagleman, D. M. (2011). Is synaesthesia one condition or many? A large-scale analysis reveals subgroups. Journal of Neuropsychology, 5, 353–371. [LINK]

4. Simner J. & Holenstein, E. (2007). Ordinal Linguistic Personification as a Variant of Synesthesia. Journal of Cognitive Neuroscience, 19, 4, 694703. [LINK]

Q8. 文字の色について、色字共感覚者の間で意見が一致することはありますか

A8.

色字共感覚者全員の共感覚色が一致することはありません。色字共感覚に限らず、共感覚には、対応関係が共感覚者ごとに大きく異なるという個人特異性があることが知られています(Grossenbacher & Lovelace, 2001)。たとえば「う」という文字の共感覚色は、色字共感覚者のAさんにとっては薄ピンク色でも、色字共感覚者のBさんにとっては水色であったりするわけです。色字共感覚者に「なぜその文字はその色なのですか」と聞いても、多くの場合は首を傾げ、その理由を答えることが困難なようです。色字共感覚者同士の親子やきょうだい(一卵性双生児を含む)であっても、具体的に文字に感じる色は異なるという報告もあります(Barnett et al., 2008)。

ところが、「あ」や「A」の共感覚色は赤であることが多い、「B」は青、「O」は白であることが多いなど、文字によっては異なる共感覚者間で色が一致しやすいものもあることが知られています(Mankin & Simner, 2017; Root et al., 2018)。そこで、色字共感覚に関して、文字の属性と共感覚色の関係を探る研究が行われてきました。その結果、文字と共感覚色との対応関係には、言語処理が関連することが明らかにされています。その対応関係は、一次的マッピングと二次的マッピングの二種類に分類できます(Watson, Akins et al., 2012)。一次的マッピングとは、その文字の特定の情報や性質が色空間内の特定の色と絶対的な関係で対応づけられることです。たとえば「Y」という字はyellowという英単語の頭文字なので黄色い共感覚色と対応づけられる、小さいときに持っていたおもちゃに青色で「2」と書かれていたので「2」の共感覚色が青色になる、などが一次的マッピングの例です。一方、二次的マッピングとは、特定の側面での文字間の相対的な関係が、それらの文字間の共感覚色の類似度に反映されることです。たとえば「E」と「F」のように形態が類似している文字ほど似た共感覚色を持つとすれば、形態情報と共感覚色の間に二次的マッピングが成立していると言えます。二次的マッピングの場合は、たとえば形の似た ”E” と ”F” が似た緑色になる共感覚者もいれば、似たピンク色になる共感覚者もいるというように、共感覚色は個人特異的になりやすいことになります。このような文字と色の対応関係を決める要因の違いが、文字間での共感覚色の個人特異性の度合いの違いになると考えられます。


参考文献

1. Barnett, K. J., Finucane, C., Asher, J. E., Bargary, G., Corvin, A. P., Newell, F. N., & Mitchell, K. J. (2008). Familial patterns and the origins of individual differences in synaesthesia. Cognition, 106(2), 871893. [LINK]

2. Grossenbacher, P. G., & Lovelace, C. T. (2001). Mechanisms of synesthesia: cognitive and physiological constraints. Trends in Cognitive Sciences, 5(1), 3641. [LINK]

3. Mankin, J. L., & Simner, J. (2017). A Is for Apple: The role of letter-word associations in the development of grapheme-colour synaesthesia. Multisensory Research, 30(3-5), 409446. [LINK]

4. Root, N. B., Rouw, R., Asano, M., Kim, C. Y., Melero, H., Yokosawa, K., & Ramachandran, V. S. (2018). Why is the synesthete's "A" red? Using a five-language dataset to disentangle the effects of shape, sound, semantics, and ordinality on inducer-concurrent relationships in grapheme-color synesthesia. Cortex, 99, 375389. [LINK]

5. Watson, M. R., Akins, K. A., & Enns, J. T. (2012). Second-order mappings in grapheme-color synesthesia. Psychonomic Bulletin and Review, 19(2), 211217. [LINK]

Q9. 共感覚を持つ人の脳は違うのですか?

A9.

共感覚を持つ人と持たない人では、物理的には同じものを見ていても違う認知処理が生じる(例えば文字を見ているときに、共感覚色を感じたり感じなかったりする)こと、そして認知処理は脳で行われることを考えると、おそらく何らかの面では異なると考えられます。しかし現状では、具体的に何がどう違うのかはあまりよく分かっていません。少なくとも、共感覚者の脳が非共感覚者の脳に比べて明らかに何かが欠けたり増えたりしているということはありませんし、病気の兆候を示しているわけでもありません。

共感覚者と非共感覚者の脳の違いを調べた研究をいくつかご紹介します。Hubbard, Arman, Ramachandran, & Boynton (2005) のMRIという技術を用いた脳機能計測の研究では、文字に色を感じる色字共感覚者は、色の付いていない(無彩色の)文字を見ているときに、文字の処理に重要な脳領域に加えて、色の処理において重要な脳領域(V4:第4次視覚野)が活性化することが示されました。一方、非共感覚者の場合は、無彩色の文字を見たときには文字処理領域は活性化しても色処理領域は活性化しませんでした。この結果に基づくと、共感覚者の脳は、色が付いていない文字を見ているときでも色を見ているような反応をしていると言うことができます。また、MRIを用いて脳の構造を調べたRouw & Scholte (2007) の研究では、非共感覚者に比べて共感覚者の場合は、脳内のいくつかの部位において、異なる脳領域を繋ぐ神経線維が多く集まった組織である白質の体積が大きいことを示す結果が得られました。これは、非共感覚者の脳には無い配線が共感覚者の脳には存在しているという仮説に合うものです(共感覚者と非共感覚者の脳の違いに関するさまざまな仮説については、Bargary & Mitchell, 2008などを参照してください)。しかし、これまでに、これらの研究を含め様々な脳機能計測の研究が行われてきましたが、似た研究でも共感覚者と非共感覚者の脳に違いが見られないものがあったり、違いが見つかった脳部位が研究間で食い違っていたり、研究協力者の人数が少なく統計学の面から見ると強い主張ができないデータが多かったりして、共感覚者と非共感覚者の脳の違いについてのはっきりとした結論はまだ得られていないのが実情です(Hupé & Dojat, 2015)。現状の脳機能計測技術では十分に調べられないところに違いがある可能性もあり(Hupé & Dojat, 2015)、今後の研究の発展が望まれます。

なお、この回答に関連する説明は、『共感覚 ―統合の多様性―』(2020, 勁草書房)第5章158ページ「共感覚の神経機構:機能的側面」でも触れられています。


参考文献

1. Bargary, G., & Mitchell, K. J. (2008). Synaesthesia and cortical connectivity. Trends in Neurosciences, 31, 335342. [LINK]

2. Hubbard, E. M., Arman, A. C., Ramachandran, V. S., & Boynton, G. M. (2005). Individual differences among grapheme-color synesthetes: brain-behavior correlations. Neuron, 45, 975985. [LINK]

3. Hupé, J. M., & Dojat, M. (2015). A critical review of the neuroimaging literature on synesthesia. Frontiers in Human Neuroscience, 9:103, 137. [LINK]

4. Rouw, R., & Scholte, H. S. (2007). Increased structural connectivity in grapheme-color synesthesia. Nature Neuroscience, 10, 792797. [LINK]

Q10. 共感覚は後天的に獲得できるものなのでしょうか?

A10.

まず、一般的な共感覚は幼少期から自然と存在するという特徴を持っており、そのため発達性共感覚(developmental synesthesia)と呼ばれることもあります。これとは対照的に、以下の通り、後天的に獲得された共感覚(acquired synesthesia)の報告例もあります(Ward, 2013)。しかし、後天的な共感覚は、発達性共感覚とは性質が違う可能性が指摘されています。

後天的な共感覚とされるものの一つに、メスカリン、LSDなど幻覚作用のある薬物の使用によって、音を聴いたときに色や幾何学図形のイメージが浮かんだりするというものがあります(Simpton & McKellar, 1955)。しかし、このような薬物による感覚は、同じ音を聴いていても感じる色や形が時々刻々と変わっていくなど時間的安定性が低く、安定性が高いという発達性共感覚の特徴(Q1参照)とは一致しません。また、発達性共感覚の場合は、文字や音階、曜日や月などの概念などの、順序を持ち、習得に学習を必要とするような情報が誘因特徴になりやすいのに対し(Q6参照)、薬物による感覚の場合は何でも誘因特徴になります。これらのことから、薬物によって引き起こされる感覚は、共感覚とは質的に異なるものだと言えます(Sinke, Halpern, Zedler, Neufeld, Emrich, & Passie, 2012)。

後天的な共感覚と言われるものの他の例として、事故や病気による脳の損傷の影響で、共感覚に似た経験をするようになった人の報告がありますが、こちらも、時間的安定性が低い、シンプルな物音など順序情報や学習の必要がないような情報が誘因特徴になりやすいなど、発達性共感覚とは質的に異なる側面があります(Sinke et al., 2012)。

訓練によって後天的な共感覚者を「作る」試みをした研究もあります。Rothen, Schwartzman, Bor, & Seth (2018) は、文字に色を感じない非共感覚者に、週5日×5週間(!)にわたって、さまざまな課題で構成された毎日1時間ほどの訓練を行い、文字と色の組み合わせ13ペアを覚えてもらうという実験をしました。その結果、この研究に協力した非共感覚者たちは、まるで色字共感覚者のように、訓練した文字を見たときに自動的かつ意識的に色を感じると報告するようになり、さらに色字共感覚者で報告されているのに似た脳活動まで生じるようになりました。この研究結果を踏まえると、共感覚を後天的に作ることは可能と言えるかもしれません。しかし、こんなに大変な訓練を受けて作られる共感覚と、特に訓練をしていないのに生じる発達性共感覚とを質的に同じものとして見なせるかについては疑問があります。

なお、この回答に関連して、『共感覚 ―統合の多様性―』(2020, 勁草書房)第1章11ページ「共感覚とは何ではないか」、及び第5章166ページ「共感覚者を「作る」試み」の説明も参考になると思います。


参考文献

1. Rothen, N., Schwartzman, D. J., Bor, D., & Seth, A. K. (2018). Coordinated neural, behavioral, and phenomenological changes in perceptual plasticity through overtraining of synesthetic associations. Neuropsychologia, 111, 151–162. [LINK]

2. Simpson, L., & McKellar, P. (1955). Types of Synaesthesia. Journal of Mental Science, 101, 141–147. [LINK]

3. Sinke, C., Halpern, J. H., Zedler, M., Neufeld, J., Emrich, H. M., & Passie, T. (2012). Genuine and drug-induced synesthesia: A comparison. Consciousness and Cognition, 21, 1419–1434. [LINK]

4. Ward, J. (2013). Synesthesia. Annual Review of Psychology, 64, 49–75. [LINK]

Q11. 共感覚は失われることはないのでしょうか?

A11.

共感覚者が普通に暮らしていて、共感覚が失われることはありません。例えば、色字共感覚者が、ある文字に感じる共感覚色を意識的に記憶している訳ではないので、共感覚色を忘れるということはありません。ただし、文字の共感覚色が加齢に伴い変化する可能性は指摘されています。10歳代後半から90歳代までの色字共感覚者のアルファベット文字や数字の共感覚色やその安定性を調べると、年齢が高い共感覚者ほど、鮮やかな共感覚色の文字が減ったり、輝度や彩度が低い共感覚色の文字を中心に共感覚色の時間的安定性が低下したりすることが報告されています(Meier, Rothen, & Walter, 2014; Simner, Ipser, Smees, & Alvarez, 2017)。

もちろん、脳の器質的な変化によって共感覚が失われたり減少したりする可能性はあります。例えば、共感覚を持つ画家が、脳の色彩知覚に関わる脳部位に損傷を受けた結果、現実の色を知覚できなくなり、世界を白黒で認識するようになっただけでなく、共感覚色も消えてしまったと報告されています(Sacks, 1995)。これは、共感覚の消失というより、色彩知覚に関わる脳部位であるV4が損傷したために、共感覚色を感じることができなくなったと考えられます。このことから、共感覚色と物理色の処理において、共通してV4が活動することが容易に推定できます。ただし、色字共感覚に関連した神経活動がV4で見られたことを報告している研究も存在はするものの、V4の活動と色字共感覚の間に関連が見られなかった研究も多いことに注意する必要があります(Hupé & Dojat, 2015; Weiss, Greenlee, & Volberg, 2018)。

共感覚に関する有名な仮説の一つに、新生児共感覚仮説というものがあります(Maurer & Mondloch, 2005)。これは、乳幼児の脳では過剰な神経接続があるが、非共感覚者の脳では発達途上で不要な接続が刈り込まれる一方、共感覚者の場合は刈り込みが不十分であるために共感覚が生じるという仮説です。すなわち、乳幼児はすべて共感覚を感じているが、発達に伴い、ほとんどの方が共感覚を失う一方、共感覚者だけが共感覚を感じ続けているという仮説です。ただし、この仮説が想定するような、乳幼児が誰でもいわゆる共感覚者のような共感覚を持っているのかについての実証的な検討は不足しています(Wagner & Dobkins, 2011)。


参考文献

1. Hupé, J. M., & Dojat, M. (2015). A critical review of the neuroimaging literature on synesthesia. Frontiers in Human Neuroscience, 9:103, 1–37. [LINK]

2. Maurer, D., & Mondloch, C. (2005). Neonatal synesthesia: A re-evaluation. In L. C. Robertson & N. Sagiv (Eds.), Synesthesia: Perspectives from cognitive neuroscience (pp. 193-213). Oxford University Press.

3. Meier, B., Rothen, N., & Walter, S. (2014). Developmental aspects of synaesthesia across the adult lifespan. Frontiers in Human Neuroscience, 8:129, 1–12. [LINK]

4. Sacks, O. (1995). An Anthropologist on Mars: Seven Paradoxical Tales, Picador.

5. Simner, J., Ipser, A., Smees, R., & Alvarez, J. (2017). Does synaesthesia age? Changes in the quality and consistency of synaesthetic associations. Neuropsychologia, 106, 407–416. [LINK]

6. Wagner, K., & Dobkins, K. R. (2011). Synaesthetic associations decrease during infancy. Psychological Science, 22(8), 1067–1072. [LINK]

7. Weiss, F., Greenlee, M. W., & Volberg, G. (2018). Gray bananas and a red letter A — From synesthetic sensation to memory colors. i-Perception, 9(3), 1–26. [LINK]

Q12. 共感覚と芸術的才能は関係があるのでしょうか?

A12.

この質問にシンプルに答えるならば、共感覚と芸術的才能の関係は高くないと考えられます。歴史上、画家のワシリー・カンディンスキーや詩人のランボーなど、しばしば共感覚を持つ芸術家や作家の名が何人も挙げられています。そのような話を聞くと、芸術や文学の才能と共感覚に強い関係がありそうに思えるかもしれません。しかし、人口の数%が共感覚者だと推定されることを考えると、芸術家や作家の数%が共感覚者だとしても、それは偶然に生じうることだと言えます。

ただし、共感覚者の中で芸術的な職業についている割合は、一般人の割合よりも高いという研究報告があります。例えば、共感覚者群と年齢、性別、教育レベルが同等になるように集めた非共感覚者群を比較したところ、共感覚者は、共感覚のタイプによらず芸術など創造的職業に就いている割合が高く、共感覚者77人中の16人であり、非共感覚者では77人中3人でした(Lunke & Meier, 2018)。また、職業の影響を統制しても、共感覚者のほうが非共感覚者よりも絵を描く、楽器を演奏する、絵画鑑賞をするなどの芸術的活動を楽しむ時間が長い傾向にあります(Ward, Thompson-Lake, Ely, & Kaminski, 2008)。このほか、芸術系大学の学生における共感覚の保有率は7%であり、芸術系大学の学生ではない人たちの共感覚の保有率の2%よりも高いことも報告されています(Rothen & Meier, 2010)。このような結果を見ると、共感覚者の中でも芸術的な職業に従事する人は、非共感覚者よりも割合が高く、共感覚者はより芸術的活動に親しむ傾向が見られ、共感覚と芸術の間には一定の関係がありそうです。

それでは、なぜ共感覚者は非共感覚者に比べて芸術的な活動への親和性が高いのでしょうか。創造性の高さを実験課題によって測定した研究では、共感覚者と非共感覚者の間で創造性の高さにはっきりとした違いが見られていないことから、共感覚が高い創造性をもたらし、それによって芸術的な活動が刺激されているとは考えにくいことがわかっています(Chun & Hupé, 2016; Lunke & Meier, 2018; Ward et al., 2008)。共感覚者は非共感覚者よりも視覚的イメージ能力や色覚処理能力、細部に注意を向ける能力など一部の知覚・認知処理能力が優れる傾向にあるので、そのことが芸術的な活動の多さと関係している可能性もあります(Lunke & Meier, 2018)。

なお、この回答の多くは、『共感覚 ―統合の多様性―』(2020, 勁草書房)第1章18ページ「芸術的才能との関係」を基に書かれています。


参考文献

1. Chun, C. A., & Hupé, J. M. (2016). Are synesthetes exceptional beyond their synesthetic associations? A systematic comparison of creativity, personality, cognition, and mental imagery in synesthetes and controls. British Journal of Psychology, 107(3), 397–418. [LINK]

2. Lunke, K., & Meier, B. (2018). Creativity and involvement in art in different types of synaesthesia. British Journal of Psychology, 1–18. [LINK]

3. Rothen, N., & Meier, B. (2010). Higher prevalence of synaesthesia in art students. Perception, 39(5), 718–720. [LINK]

4. Ward, J., Thompson-Lake, D., Ely, R., & Kaminski, F. (2008). Synaesthesia, creativity and art: What is the link? British Journal of Psychology, 99(1), 127–141. [LINK]